Session17【ボーカルトレーニング】

あなたがボイストレーナーであるならば、担当する生徒に課題曲を沢山用意させる必要はありません。
ボイストレーナーがボイストレーニングにおいて、歌の練習を生徒にレクチャーする理由は様々ですが、中でも、

1. ボイストレーニングでの発声が歌に活きているかどうかを確認するため
2. 曲を歌うのではなく、詞のイントネーションを理解し歌うことを理解して貰うため
3. 生徒が自分本来の声質で歌えているかを確認するため
4. 歌唱の中でもピッチやリズムが安定しているかを確認するため

などの4項目は重要です。

他にも、実際に“ボーカルトレーニング”を行えば色々と己の発声方法を調整することに気づく部分が出てくるものです。
ボーカリストは個々によって、ボイストレーニングのメニューが異なるのです。
しかし大きく分けて上記の4項目は、どのボイストレーナーも生徒に確認する必要があります。
順番に解説していきたいと思います。

目次

1:ボイストレーニングでの発声が歌に活きているかどうかを確認

例えばボイストレーニングを行った結果、抜けのある声が出るようになり、ピッチが良くなり、リズムも良くなったとしても、それらが実際に歌を歌いそのまま表現出来るのかというと、最初は生徒にとって難しいことが普通です。
やはり歌っている時の身体の使い方の癖は、ボイストレーニングで技術を高めても中々拭えません。

ボイストレーニングのレッスン中では技術は100点満点中、100点でなければなりません。
要するに【レッスンの場では】生徒は完璧に出来なければいけないということです。
なぜならば、実際に歌を歌った場合7割ぐらいしかトレーニング成果が活きないからです。
7割ですからボイストレーニングで満点でも、実践では7割活かせるかどうかです。

7割が悪いことなのかというと、そうではありません。
それで良いのです。
歌っている最中にトレーニング技術を考えながら歌っていては、良い歌は歌えません(余程体調が悪い場合などには、トレーニング技術を考えながら歌うべきです)。
ボイストレーニングのノウハウを意識し過ぎて、感情を表現するということを忘れてしまうようではいけません。
周知の通り歌には『感性』も必要なのです。

生徒に7割のボイストレーニング成果を歌に出してあげるために、ボーカルトレーニングをレッスンで行う必要性は大いにあります。
ボーカルトレーニングはレッスンの段階を問わず、必要不可欠と考えるのが当連盟の方針です。

2:曲を歌うのではなく詞を読むことを理解する

歌詞を読む・歌詞のイントネーションを理解するということは、非常に重要です。

時代に名を残した優れた作品たち。
これらは曲のメロディーの流れと詞のイントネーションの流れが一緒です
つまり「いとしのエリー」でしたら冒頭の、

【歌詞】なかしたこともある つめたくしてもなお
【譜面】ミファソソソラソファミ ミファソソソラシラソ

と、なるように歌詞を読んだ日本語のイントネーションと、譜面のイントネーションの流れが一致しています。
標準的な日本語を話す場合の音の上がり下がりがそのまま曲に反映されている状態になると、説得力が増し、人の心を打つ作品になります。
実際に作詞家業界では、音符の流れとイントネーションを重んじて作詞を行うことが一般的ですが、後世に残らない作品というのは、この法則に従っていないケースが事実として多数存在します。
歌詞と譜面・イントネーションの関係を知って作品を作ったり、歌を歌うのとそうでないのとでは大きな差が生まれます。

【過去も現在も聴かれる曲の一例】
・いとしのエリー (サザンオールスターズ)
・Tomorrow Never Knows (Mr.Children)
・LOVE LOVE LOVE (Dreams Come True)
【注】「雪の華」(中島美嘉)のようにややイントネーションの流れと異なる歌詞でも名曲は小さい割合で存在するのも確かな事実です。

また邦楽ですと、日本語の歌詞なのでイントネーションが日本人には理解出来ますが、洋楽だと難しい場合もあります。
外国のシンガーが日本語の曲を歌った時にイントネーションに違和感を感じてしまうように、英語の発音が流暢ではない日本のシンガーが英語で歌っても、英語圏の方は違和感を感じてしまいます。
言葉の壁というのはなかなか崩すことが難しい、という事実も理解する必要があります。

3:自分にとってもっとも自然な声質であるかを確認

声質はとても重要です。
ボイストレーニングを行う上でもっとも重要なことは、ボイストレーナーがその人の声質を変えないことです(つまり喋っている声と歌っている声を変えないこと)。
なぜ変えてはならないのか、それにはもちろん理由があります。
20年、30年と長く歌手生活をしているアーティストの方々の声を聴いてみて下さい。
喋っている声も歌っている声も、ほぼ一緒の質感です。
サザンオールスターズの桑田佳祐さん、桜井和寿さん、玉置浩二さん、久保田利伸さん、吉田美和さん、森山良子さんなど挙げればきりがないのですが、全員喋り声と歌声の質感が変わっていません。

アーティストが長く続くということは、リスナーの気持ちを掴んでいるということですが、本Sessionの2項で前述している通り、メロディーに歌詞が乗るから説得力がリスナーに対して増すのです。

ボイストレーニングを行う上での注意点でもありますが、基本的にボーカリストの喋り声の質感を壊すようなボイストレーニングを執り行ってはいけません。

生徒には歌っている声質を喋っている時と、なるべく相違無いように歌って貰う必要があります。
良い歌というものがどういう理屈で成り立っているかは、歴史の中の名曲やボーカリストが証明しています。
生徒本来の自然な声で歌わせてあげないと、ボーカリストとしての良さを失ってしまいかねません。

4:歌唱の中でもピッチやリズムが安定しているかを確認

ピッチやリズムの練習をボイストレーニングで行っても、歌になると崩れてしまう生徒がいます。
それは歌で表現しなくてはならない!という衝動や癖に駆られてしまい、本人が冷静でなくなってしまうからです。
あくまでもステージではなく、練習段階で歌を歌う上ではある程度冷静であることが必要です。
ボイストレーニングのレッスンでしっかり技術面で100点満点を叩き出し、ライブでは70点ぐらい活かせることを目標にするということが、当連盟における方針です。

5:歌ではなく『話し方』も同じ観点か?

全く同様です。
話し方こそ不自然なトーンでは、相手に距離感を抱かせてしまいます。
声質を崩さない生徒の『人となり』が一番出せるような声質を探して教えていくことが、ボイストレーナーの役割となります。

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