Session1【腹式呼吸の必要性】

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本Sessionの腹式呼吸に関する説明は、しっかりと皆様にご理解頂きたいと思います。腹式呼吸は歌手の発声のみならず、舞台役者、ナレーター、声優、講演者などの職業でも最低限知識としてしっかりと知っておくべきものであり、実際に腹式呼吸を使わない場合だとしても、胸式呼吸をどの程度取り入れるかどうかを模索して行くということが同時に重要です。
声を生業とする職業の基本である腹式呼吸を理解しない状態で胸式呼吸を取り入れていくのはキャラクターの方向性が定まらないばかりでなく、その日のコンディションを整えることもできません。
声を職業にする全ての人が、腹式呼吸を理解しなくてはなりません。

1:腹式呼吸の必要性

図①は人間の上半身を正面から断面にした図です。
分かり易く解説するために簡略的な図であることをご了承下さい。

中央の二つの肺は皆さんがご存知の通り、肋骨の中に納められている臓器です。
肺の下には横隔膜があります(この膜は筋肉で構成されています)。
横隔膜が上下左右に伸縮することで、肺も連動して伸縮し、息を吸ったり吐いたりすることが出来ます。
横隔膜は肺の真下に存在し、腹部から背中まで広がる大きな膜状の筋肉です。
横隔膜のさらに下に×印がありますが、これが臍(へそ)部分です。
臍の周囲を白い“矢印”がぐるりと囲んでいますが、ここが息を吸う時に膨らむ場所です(実際には膨らむのではなく元のお腹の形状に戻るだけ)。
さらに息を吐く時は臍のこぶし一個分ぐらい下、つまりほぼ股間に近い筋肉を凹ませます。
所謂、一般的には丹田(たんでん)と言われている場所です。
体外へ向かう矢印「←」はお腹や横隔膜が息を吸う時に動く方向を示しています。
図の右に記載のある「胸式」「腹式」というのは、胸式は肩が動く呼吸方法(全身呼吸)であることを示し、腹式は腹部のみが動く呼吸であることを示します。

図①

さて、以降は腹式呼吸の必要性を解説していきます。
まず胸式呼吸と腹式呼吸の違いを理解しなくてはいけません。
胸式呼吸とは、いわゆる全身呼吸です。
激しいスポーツをした後、息が上がります。
その際、肩が動いたり、頭が揺れたり、うなだれたり、とにかく全身が酸素を欲する状態になります。
それが胸式呼吸です。
胸式呼吸は歌を歌うには不向きですが、最近のポップスの傾向としてウィスパーボイス(チェストボイスを取り入れた囁くような声の出し方)やミックスボイス(チェストボイスを取り入れた全音域の発声方法)の発声には必要です。

※チェストボイスについてはSession8を参照して下さい。
※ウィスパーボイスとミックスボイスについてはSession9を参照して下さい。

腹式呼吸が歌に向いている理由は以下の通りです。

① 息を吸う際の0.5秒あたりの呼吸量が多い
② お腹周りしか動かないので全身が安定しリズムがブレにくくなる
③ アタックのある発声を促進
④ 声を共鳴させることが出来る(共鳴はSession3参照)

などが理由です。
上記4項目は腹式呼吸と胸式呼吸の大きな違いでもありますが、胸式呼吸のデメリットはこれら全てを解決出来ないという点にあります。

2:腹式呼吸のメカニズム

身近な物に例えて腹式呼吸を説明しようとすると、腹式呼吸はスポイトに似ています。
小学生の頃に理科の実験で使用した、あのスポイトです。

『人体(上半身)=スポイト』
だと考えてみて下さい。

息を吐く時、下腹部(丹田)に力を入れます。
下腹部の凹みと同時に横腹の腹横筋は外側へ押し出され、下腹部全体の容積が狭まる為、横隔膜が上部へと押し上げられます(次頁図②の白矢印(⇒)の動き)。
言い換えるならば、下腹部にある腸などの臓器が筋肉を委縮させることで圧迫され上に押し上げられる。それと同時に横隔膜も上へ押し上げられるということです。
横隔膜と肺はほぼ連結しているので、横隔膜が上がり肺が圧縮され、鋭いパンチのある空気が口から出て行くのです。

息を吐く時はスポイトと比較すると、あの赤いゴムの取っ手の部分を指の力を使って潰した状態と言えます。
そうするとスポイトの中の空気は外に出ないわけにはいかなくなりますから、空気が管を通って外に出て行く、つまり腹式呼吸はスポイトと同じ原理ということになります。
では次に息を腹式呼吸で吸ってみます。
この時下腹部はお腹の力で凹んだままの状態です。
今度はこのお腹の力を一気に弛めて下さい。
そうすると、お腹の形状が元に戻ります。
この時、横隔膜も元の位置に戻ります。
さらに肺も元の形状に戻ります。
これにより外気は肺へ流れ込みます(下図②の白い矢印部分すべてが元の位置に戻ります)。
要するに腹式で息を吸うということは、ごく自然な動作なのです。
また息を吐いている時は、下腹部を凹ませるために背筋までが萎縮するので、息を吸った時は背中も「ふわっ」と膨らむ感じがあります(元通りになっただけ)。

スポイトに例えると、ゴムから手を放した瞬間に勝手に空気が入り込む現象と全く同じです。
腹式呼吸が解りづらい場合はスポイトに例えると解り易いです。
詳しくは下の図②を参照。

図②

―腹式呼吸で息を吐く時の注意点―

* 横隔膜は下腹部(丹田)を凹ませて上へ押し上げること
* 下腹部と腹横筋は連動して硬くなること(下腹部は凹み、腹横筋は外側へ押し出る)
* 肩が揺れないこと(全身がぶれない)

―腹式呼吸で息を吸う時の注意点―

* 一気に全身の力を抜くこと
* 息を吸う際は0.5秒で吸えるようにすること
* 背中まで弛んだことを確認すること
* 普段のお腹の形状まで戻すこと(あまり膨らませ過ぎると力むので腹式呼吸として成立しない)

3:腹式呼吸で息を吸う時の練習の仕方

腹式呼吸で息を吸う時の練習の仕方があります。
それは椅子に座って前にかがむ方法です。
その際に足は「ダラっ」と開いて肘を両膝に付けて下さい。
この姿勢により、上半身も下半身も固定された状態になります。
つまりこの姿勢だと、腹部以外は固定されて動かすことが不可能な状態になるため、無理やり腹式呼吸で息を吸える姿勢だと言えるのです。
この方法は腹式呼吸で息を吸うコツを掴む取っ掛かりとしては良い練習方法です。

さて、背筋に手を当てておもいきり息を全部吐いてから、脱力するようにまた息を吸ってみて下さい。
フワッと背中まわりが膨らむ(筋肉が弛む・元に戻る)感覚を覚えるはずです。
これは横隔膜が元の場所に戻ったことも同時に意味します。

座っている時は簡単に腹式で息を吸えるのに、立っている時にこれが難しいのは「立つ」という行為自体がバランスを取ることが難しいからなのです。
例えるなら人型ロボットや人形を立たせようとしても上手く立たせることは難しいですよね。
人間も同じで立つにはバランスが必要で、そのために身体の筋肉をたくさん使っているのです。
つまり、立つ時に無意識に筋肉を使っており、無意識ゆえに腹式で力を抜いて息を吸うという事が中々出来ない人が多いのです。

当連盟ではボイストレーニング初期においては、座って腹式呼吸で息を吸う練習を推奨しています。

第5版にあたる Version5.0 を2023.7.4にリリースしました。
・全体的な文章校正
・言葉使い、言語の統一(ひらがな、全角半角の統一含む)
・各Sessionの図の差し替え
・Session9【ミックスボイス・ウィスパーボイス】の内容改訂
・Session15 【ビブラート】の内容改訂
・Session17 【ボーカルトレーニング】の内容改訂
・Session19 【ボイストレーニングの必要性】の内容改訂
・Session20 【喉のケアの方法】の内容改訂

第4版 Ver.2017.07.10 変更点
・全体的な文章校正
・言葉使い、言語の統一(ひらがな、全角半角の統一含む)
・日本ボイストレーナー連盟の各ページのロゴを省略
・Session1 P.8の上半身図の「腹横筋」の追記。その他文章修正
・Session3とSession8の声帯図の向きの統一
・Session4の「I(イ)」の図の解説文
・Session9【ミックスボイス・ウィスパーボイス】Session追加
・Session10 マイナースケールの半音の灰色ライン部分の修正
・Session12 ソルフェージュの譜面の差し替え
・Session14 図に「腹横筋」文字の追記
・Session15 ビブラートの図。舌の絵の修正、動きの詳細文の省略
・Session20 生理食塩水の分量の記述を省略。

第3版 Ver.2015.12.01 変更点
・文章表現の見直し及び、誤字・脱字などの修正
・Session12を【リズム】から【ボイスポジション】に変更
・生理食塩水については、医療的立場では責任を全う出来ないという当連盟の考えから当該項目の件を全文削除致します

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